青森の私鉄「津軽鉄道」(青森県五所川原市、TEL 0173-34-2148)が新型コロナウイルスの収束後に向けて新たな企画の準備を進めている。
津軽鉄道は津軽五所川原駅から中泊町にある津軽中里駅までの20.7キロのローカル鉄道。「ストーブ列車」「風鈴列車」などのイベント列車や、小説家・太宰治の生家が沿線上にあることから「走れメロス号」などの列車で観光客誘致にも力を入れている。近年はインバウンドの需要も高まっていた。
今年は新型コロナウイルスの影響で3月以降の売り上げは50%以上減少。7月以降は少しずつ回復に向かいつつあったが、「GoToキャンペーン」の一時停止により、予約のキャンセルが相次ぎ、来年1月以降では5000人にも及ぶという。社長の澤田長二郎さんは「乗客数はもともと減少傾向にあり、新型コロナウイルスでさらに厳しい経営状況に陥っていたが、みなさまに助けられながら新しい挑戦を続けた1年だった」と振り返る。
今年3月には現状を理解してもらおうと「津軽鉄道はまだ大丈夫 そう思っていませんか?」と、苦境を訴えるポスターを作成。地元民向けのフォーラムを企画したが、非常事態宣言の発令により中止となった。ポスターのインパクトある内容から話題を集め、津軽鉄道を支援する「レール・オーナー制度」への寄付は500件近くにも上った。澤田さんは「想像以上の支援をいただき感謝しかない」と話す。
5月からは地元のアーティストが描いた「アマビエ」のポストカードを付けた一日乗車券の販売(販売終了)やサポーターズクラブ関東支部の発案によるペーパークラフトと使用済み硬券を同梱した未来乗車券を発売。青森のVチューバー・青森りんこさんの発案による実証企画「青森りんこ区間」の募集を実施し、レール・オーナー制度の寄付は増加したという。
沿線の様子を紹介したいと4月28日から始めた「仮想乗車」は、動画投稿サイト「ユーチューブ」に車窓の風景を動画で発信するという企画。現在は第2弾として秋の様子を区間ごとに順次配信している。澤田さんは「外出や移動の自粛が求められる中で、県内外から心配の声がいただくようになり、少しでも乗車している気分を味わってもらおうと始めた」と話す。「視聴者からは乗車賃以上の寄付をする人も中にはいる」とも。
2018(平成30)年に発足した「津鉄ア・モーレ」は沿線にある2市町の若手職員らが自治体の垣根を越え、津軽鉄道の活性化を考える会となっている。フォトコンテストやイルミネーション車両などを企画し、2021年1月1日からはレール・オーナー制度に新しい特典を提案した。申込者には「駅名看板キーホルダー」や「津軽鉄道車両の竣工図」などを数量限定で進呈するもので、「私たちには思いつかないアイデアをいただいている」と澤田さんは明かす。
今年は1930(昭和5)年に全線開業して90周年にあたり、11月には90周年記念イベントを企画していたが、来年以降に延期とした。従業員の高齢化は進み、スタッフの数も往年に比べて3分の1以下。公共交通機関として休業することもできず、感染症対策をして営業を続ける。
澤田さんは「さまざまな人に助けもらいながら続けられている。当社は鉄道会社として乗車していただくことに喜びがあり、コロナが収束した時にはたくさんの人たちに楽しんでいただけるような企画を用意しておきたい」と話す。