筋子(すじこ)納豆
青森・津軽地方の料理「すじこ納豆」が現在、テレビや雑誌などで取り上げられ、全国的に注目を集めつつある。昨年、回転すしチェーン店「スシロー」は「全国うまいもんめぐり」と題したキャンペーンで、青森名物として「筋子(すじこ)納豆軍艦」を販売した(現在は販売終了)。一方で、知らない地元住民が多く、食べたことがないといった声もある。編集部が調べてみた。
「すじこ納豆」は納豆にすじこをのせて食べる津軽地方の料理。青森出身の作家・太宰治が好物として食べていたと知られ、「人間失格」の原型とされる小説「HUMAN LOST」の中で「私は、筋子に味の素の雪きらきら降らせ、 納豆に、青のり、と、からし、添えて在れば、 他には何も不足なかった」(「HUMAN LOST」より抜粋)というシーンもある。
五所川原・金木の豪商と呼ばれた佐々木嘉太郎の孫娘で、幼少期に太宰と一緒に暮らしたことがある飛島蓉子さんは、その著書の中で、朝起きてこない太宰に「朝食はすじこ納豆ですよ」というと、すぐに食卓についたといったエピソードや自身がすじこ納豆は「おふくろの味」だったといったことを紹介している。(「誰も知らない太宰治」より引用)
今年2月に「すじこ納豆」とキュウリを巻いた恵方巻きを「太宰の恵方巻」として初めて販売した「産直メロス」(五所川原市金木)のマネージャー・毛内秀登さんは「太宰がすじこ納豆が好きだったということは家族などの証言からも明らかになっている。特にひきわりで食べることを好んでいたようだ」と話す。
「太宰の恵方巻」は好評で来年以降も提供していく予定
弘前で「津軽そば」や「イカメンチ」といった郷土料理の発信をする「弘前を愛するエルダーの会」の三上光子さんは「在京のテレビで取り上げられる機会が増えているが、津軽ではそんなに多くの人が食べているわけではない」と指摘する。三上さんは友達の家に外泊した時に初めて知った。「今から約50年前の話。友達の家で朝食として出てきたことに驚いたことを今でも覚えている。それ以来食べ続けている」。
三上さんによると現在でも「すじこ納豆」を食べているのは少数という。「『津軽そば』も『イカメンチ』も昔は家庭料理で、今のように認知されていなかった。今では郷土料理の一つとして紹介されている。県外から取り上げられることで、近い将来、『すじこ納豆』も郷土料理として知れ渡るようになるかもしれない」と三上さん。
「ドテノメヘヤッコ」(弘前市土手町)で提供しているすじこ納豆ご飯
虹のマート(弘前市駅前)ですじこを販売する浜田健三さんは、「すじこは高級食材のようなイメージがあるが、40年前は今の価格の10分の1程度だった。一般家庭の食卓によく並ぶものだったため、納豆と一緒に食べても不思議ではない」と話す。「すじこの消費量の統計データは正確にはないが、青森の消費量は多い」とも。
納豆の消費量も青森県は多い。2021年に発表された総務省統計局「家計調査」では全国3位。雪国にとって納豆は冬の貴重なタンパク源として家庭で作られていたことも背景にある。
また、浜田さんによると、すじこが青森に根付いていることには北洋漁業の影響が少なからずあるという。浜田さんは「すじこは青森を中心に東北地方の人たちが好んで食べる。今ではすじこを塩漬けする職人が少なくなり、弘前でも販売する業者が少なくなった。昔ながらの製法で作られた『すじこ』と『納豆』を、ごはんにのせると相性は良い」と話す。
虹のマートで販売するすじこ
2015(平成27)年に「日本筋子納豆協会」というすじこ納豆を盛り上げる会が発足した。発起人で代表の小池政晴さんによると、定期的にすじこ納豆がメディアで紹介されるため、同協会のフェイスブックページの会員は増え続けているという。「世間一般での認知はまだまだだが、もの珍しさからメディアに紹介されるケースは多い」と小池さん。
小池さんは「青森PR居酒屋 りんごの花」(東京都)の店主で、店でも「すじこ納豆」を提供している。メニューとして販売すると決めたのは、弘前のホテルで泊まった時だったという。朝食のバイキングに並んでいた納豆とすじこを見て決めた。「今では『すじこ納豆』を求めて食べに来る人が増えている」と笑顔を見せる。
ずらりとならぶすじこ納豆ごはん(写真提供=日本筋子納豆協会)
「すじこ納豆」の取材を進めた中で、地元住民のさまざまな声を聞いた。多くは「食べたことがない」「知らない」といった声だったが、食べている人は確かにいる。取材時に聞いたさまざまな声を紹介する。
「すじこは好きでよく食べるが納豆と合わせて食べたことはない。さっそく試してみたい」(30代男性)
「すじこ納豆はよく食べていたが、痛風にかかり、食べなくなった。私以外の家族は今でも食べている」(70代男性)
「すじこは高級食材だから納豆との組み合わせはアンバランス。すじこは単品で食べます」(40代女性)
「東京にいる娘にすじこを送ることがある。東京では買えないから。娘の夫は南国生まれで、すじこは食べないと聞く」(60代女性)
「家族は食べないが、祖母の影響を受けた姉だけはすじこ納豆を食べている」(20代男性)
「納豆が好きでたらこや卵などを合わせる。すじこもあればもちろんやる」(30代女性)
「本当は好きだが、健康面が気になるし、何より家族に心配されるのであまり公言しない。そんな人が多いのでは。健康診断が気にならなければ毎日食べたい」(40代男性)
【VOTE】みなさんは「すじこ納豆」を食べますか?
・「人間失格」「走れメロス」カステラがセットに 「太宰治カステラ」販売へ(弘前経済新聞)
・弘前で昭和30年代の「祝言の儀式」を再現 花嫁行列や祝言料理も(弘前経済新聞)
・津軽の郷土料理「いがめんち」 創作郷土料理店がテイクアウト販売(弘前経済新聞)
・大和家のおにぎり「りんごごはん」再販 86歳現役が握る(弘前経済新聞)
・弘前の「虹のマート」が食品をキーホルダー化 「すじこ」「いかめんち」など(弘前経済新聞)