
「弘前市民はチェーン店が好き」という言説を聞いたことはないでしょうか。「弘前でチェーン店がオープンすると人だかりができる」「弘前市内のチェーン店はいつも混雑している」など、確かにそれを裏付けられそうな印象はあります。そこで、弘前経済新聞では、弘前におけるチェーンストア史を紐解き、独自の見解を示すことにしました。
飲食業界を中心としたチェーン店舗展開と撤退の変遷の調査、市民向けアンケート、識者インタビューを通じて、弘前の商業地図と地場消費者のウォンツを展望していきます。
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弘前のチェーンストア史を語る上で欠かせないのがイトーヨーカドー弘前店の存在です。同店は1976(昭和51)年、弘前駅前に開業。全国的に店舗を展開するナショナルチェーン(NC)が弘前へ本格進出するきっかけとなった事件といえるでしょう。イトーヨーカドーとしても、売り場面積では全国最大級となる旗艦店舗。この「黒船」の登場によって、土手町に一極集中していた商業構造が、駅前・大町エリアとの二極化へと変わっていきました。
さて、弘前ではNCの新規出店時に業種・業態を問わず開店前に行列ができる傾向があります。



弘前にセブン-イレブン初出店 開店に100人の行列、テープカットも
オープン前に300人以上の行列があったという(「食生活♥♥(ラブラブ)ロピア弘前店」がオープン)
こうしたチェーンストアに絡む「お祭り感」の源流を、弘前におけるNC第1号といえるイトーヨーカドー弘前店のオープンに見ることができます。当時の報道では、開店前に並んだ数はなんと4000人以上。営業初日だけで、延べ5万人が来店したという賑わいぶりから、熱量の凄まじさがうかがえます。NCは地方民にとって「中央の文化」。憧れや未体験の価値を提供してくれる存在として、羨望を集めたことでしょう。

イトーヨーカドー弘前店オープンの盛況ぶりを報じる陸奥新報1976年10月2日付
また、チェーン店の進出は「都会度」「先進度」を示す指標にもなっていました。イトーヨーカドーに加えて代表例として挙げられるのは紀伊國屋書店。1983年に東北1号店として弘前店が開業したことで「あの仙台に先駆けた」と誇らしげに話す弘前市民は少なくありませんでした(紀伊國屋書店弘前店は2019年に閉店)。弘前市民にとってチェーン店はシビックプライドを補強する存在でもあったと言えるのではないでしょうか。
「弘前市民はチェーン店好き」仮説は、ファストフードチェーン(バーガーチェーン)の動向からも、みてとることができます。
弘前市内にはマクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)、モスバーガー、ゼッテリアの4ブランドが立地しています(2025年12月現在)。

マクドナルド弘前大町店
弘前進出が最も早かったのはファースト・キッチン。同チェーンは1977年に誕生し、その後にイトーヨーカドー弘前店に入居しています。続いて1982年までにKFCの弘前1号店がヨーカドー近くにオープン。同じく1982年に開業した弘前駅ビル・アプリーズ内にドムドムハンバーガー、翌83年に代官町でモスバーガー、さらに1985年ごろに土手町でロッテリアが開業します。1987年ごろからは和泉のメディアイン城東店近く(現・萬屋弘前城東店の敷地内)でデイリークィーンも営業。

人口約19万人(当時)の地方都市において、一気にこれほどのバーガーチェーンが展開された社会的インパクトは大きく、1980年代半ばには地域の食文化におけるハンバーガーの地位が確立したと推察できます。
1990年代には満を持して最大手・マクドナルドが進出を果たします。1991年に1号店となる弘前堅田店がオープンし、ヨーカドーそばに弘前駅前店(1992年開店)、国道沿いに102弘前店(1996年開店)を相次いで展開していきます。このうち102弘前店は、すでに営業していたKFC(弘前城東店、1989年開店)とモス(弘前城東店、1990年開店)が目と鼻の先に立地しており、競争が過熱しました。

高田5丁目の国道102号・県道128号交差点。マック、KFC、モスの3チェーンが近距離に立地している
マックはこのほか、イトーヨーカドー店(1995年)、南大町ユニバース店(1998年)、弘前さくら野店(2001年)といった施設内店舗を展開。一方で、KFCは1998年までに弘前駅前店と土手町店の2店舗をクローズして中心市街地から撤退、モスは弘前中野店を1992年に開業しつつ、代官町店を1998年までに閉めました。マックが店舗を増やしながら中心街とバイパス沿いを両にらみする一方、ライバル2社は郊外型にシフトしたといえます。

ケンタッキーフライドチキン弘前下土手町店(1996年撮影、写真提供=弘前商工会議所)
2000年代以降の動きとしては、一時撤退したドムドムがジョッパル(当時)に入居する形で復活しましたが、同施設の閉鎖に伴い2005年に完全撤退。一方で、1980年代には2年ほどの営業で撤退したロッテリアが「弘前イトーヨーカドー店」として、マックに置き換わる形で再進出(2017年)。同店は2025年にゼッテリアにリブランディングされました。

ゼッテリア CiiNACiiNA弘前店
弘前にハンバーガー店「ゼッテリア」 ロッテリア東北初の新業態
昭和期に開業した店舗で現存しているマック、KFC、モスの3社が平成以降に弘前市内でオープンした店舗は、マックの施設内店舗と弘前駅前店を除き、2025年12月現在も営業を継続しています(モス弘前中野店は移転)。

モスバーガー弘前駅前店
モスバーガー弘前中野店が弘前駅前に移転 キャストスタッフも移転
これは、全国的に見ると決して大きくはない弘前の商圏規模において、相応の売り上げを長年維持していることであり、弘前がファストフードニーズの根強いエリアである証左ともいえます。事実、弘前市内のバーガーチェーン各店は安定した集客を見せており、特に昼夜のピーク時における混雑ぶりはチェーン店人気の表れと呼べるものでしょう。
各店の主な客層は中高生のグループ客、大学生~社会人の個人客、ファミリー客と、幅広いのが特徴。これは各社のマーケティングパワーによるところが大きいと思われますが、加えて弘前においては、1980年代のNC店の連続進出というカルチャーショックを体験した世代が下支えしてきた部分もあるのではないでしょうか。当時の鮮烈な記憶を有した層が子育て世代となり、家族との食事にも用いてきたことで世代を横断した支持が連続的に形成されていき、バーガーチェーンに対する底堅い人気がある地域となった、という説には一考の余地があります。
バーガーチェーン業界でマックの店舗展開が始まった1990年代の弘前市内において、最も大きいNC関連の動きがコンビニエンスストアの台頭です。初進出したコンビニチェーンはサークルKで、1989年までに出店しています。次いで1994年にサンクスが進出し、ミニストップ、ヤマザキデイリーストア(現デイリーヤマザキ)も相次ぎ参入。そして1997年には、ローソンが現在の大手3社の中で最も早く出店し、まもなく県内でのシェアを急拡大させました。

サークルK弘前西弘店(1999年撮影、写真提供=弘前商工会議所)
コンビニという業態の特筆すべき点は、その急拡大以前の街角に点在していた食品販売、駄菓子屋、雑貨店、酒屋、たばこ屋といった小規模小売店の機能を兼ね備えていたことです。コンビニの件数が増えるにつれ、「ご近所のパパママストア」は1990年代から2000年代にかけて次々に姿を消しました。それは良くも悪くも、当時まだ昭和の名残があった地域の景観を塗り替える現象だったと言えます。
こうして弘前の街にもコンビニが定着した後、2006年にはファミリーマートが進出。2016年にサークルK・サンクスを統合したことで、青森県内でも2018年までに、既存のサークルKサンクス系列店舗がファミリーマートに置き換わりました。そして2015年には、最大手・セブン-イレブンがようやく上陸。待望した県民が各店の開店前に行列をつくり、その様子はセブンの存在が当たり前だった全国の人々を驚かせました。

開店前に100人以上の行列ができたセブン-イレブン弘前駅前3丁目店(2015年6月12日)
弘前にセブン-イレブン初出店 開店に100人の行列、テープカットも
2025年現在、弘前市内にあるコンビニは85店舗(サテライト店・5店舗含む)。2019年の88店舗からは微減し、ブランド別ではセブンのみが16店舗から21店舗に増店していますが、総店舗数としてはピークアウトしたと言えます(いずれも弘前経済新聞編集部調べ)。国内全体でみても店舗数は同様に天井を打ったような傾向です。理由については人口減による消費の頭打ち、人手不足による店舗運営のひっ迫化などが挙げられ、弘前においても同様であると考えられます。
弘前市内でファミレスや牛丼チェーンの進出は、バーガーチェーンやコンビニからは一拍遅れた形となりました。
ファミレスでは、びっくりドンキーが元寺町に1996年ごろに弘前店を構え、先鞭をつけました。同店は弘前市内で2000年以前に出店して現存する唯一のNC系ファミレス店舗です。

びっくりドンキー弘前店
びっくりドンキー進出と同時期にステーキ宮も駅前町に開業し、その後に堅田バイパスへ移転するも2年ほどで閉店。その後、6年のブランクをはさみ2012年に102号線沿いの現店舗(弘前店)をオープンします。その間にガスト(2001年)、牛角(2002年)、ココス(2007年)、しゃぶしゃぶ温野菜(同)、ビッグボーイ(2008年)が進出しファミレスNCの出店が本格化。2013年にペッパーランチ、2019年にしゃぶ葉、2023年にサイゼリヤがオープンし、2024年にはガスト弘前城東店がバーミヤンに置き換わりました。2025年には、食べ放題業態チェーンでしゃぶ葉と展開店舗数トップを争う焼肉きんぐが進出しました。

焼肉きんぐ弘前店
牛丼チェーンでは1997年ごろ、すき家が上陸。追って吉野家が2001年ごろに出店します。2010年代に入るとなか卯(2010年)、かつや(2013年)、天丼てんや(2014年)と相次ぎ新規チェーンが参入。2021年に松屋が進出したことで、業界BIG3(すき家、吉野家、松屋)が弘前にそろいました。

すき家の弘前第1号店の弘前中央店
出店傾向をみると2000年以降のバイパス沿いに集中。麺ものNCでは幸楽苑(2007年)、丸亀製麺(2009年)、ラーメン山岡家(2011年)、ゆで太郎(2024年)、煮干しラーメン山岡家(同)がいずれも国道102号や国道7号線・弘前バイパスに出店。弘前バイパス沿いではゼンショー系列(なか卯、すき家、ココス、はま寿司)とすかいらーく系列(バーミヤン、しゃぶ葉)が店舗を並べ、競っています。
国道102号に接続するバイパス沿いに立地する丸亀製麺弘前
ゼンショー系列・ココス、はま寿司の店舗が並ぶ国道7号線・TSUTAYA弘前店向かい
しゃぶ葉弘前城東店の店舗と近隣に立地するバーミヤン弘前城東店の案内看板
弘前は藩政時代からコーヒーをたしなんでいたという歴史を持ち、喫茶文化が色濃い街です。現在も喫茶店は市内に100以上あり、中には東北最古の老舗も。そこにおいて先行したのがミスタードーナツでした。1986年ごろに土手町に開業し、NCがカフェ文化の中心地に分け入ることとなります。同店舗は同時期に開業した駅前の店舗と併せて現存しませんが、イオンタウン弘前樋の口ショップと弘前ステーションショップ(アプリーズ内)に代わって営業を続けています。

ミスタードーナツ弘前土手町ショップ(1999年撮影、写真提供=弘前商工会議所)
その後、コーヒーチェーンとして商勢圏に動きがあったのは2002年。ドトールコーヒーショップがさくら野百貨店弘前店にオープンし、翌年にはイトーヨーカドー店弘前店(当時)にも店舗が入居しました。こちらもミスドと同様に営業中です。

ドトールコーヒーショップ弘前さくら野店が入居するさくら野百貨店弘前店ラフォルテ館入口
その後、しばらく無風だった環境は、最大手・スターバックスコーヒーの登場で再び大きく動きます。青森県に初上陸した2010年(五所川原市、現・ELM内)から時を経て、2015年に満を持して弘前市に出店。市内1号店は国有形文化財・旧第八師団長官舎を活用した弘前公園前店でした。文化財指定の建物での運用店舗は2例目という話題性もあって、地元客だけでなく観光客が立ち寄るスポットとしても人気を博しています。

開店初日の早朝から行列ができたスターバックス弘前公園前店(2015年4月22日)
その後、スタバはさくら野弘前店(2017年)、TSUTAYA BOOKSTORE 弘前ヒロロ店(2020年)と展開し、主な支持層である若者世代を中心に顧客を吸着しています。スタバ進出の翌年、2016年にはタリーズコーヒーもTSUTAYA弘前店内にオープンし、業界上位5チェーンのうち、4チェーンが進出となりました。残る一角であるコメダ珈琲店は2019年に青森市に出店し、47都道府県展開を完了させましたが、弘前市への出店には未だ至っていません。
2025年現在の弘前市内で着目したいのが、城東エリアの回転ずし競合です。国道7号・弘前バイパス沿いにはスシロー、くら寿司、はま寿司と業界トップ3が並び、周辺にはローカルチェーンやリージョナルチェーンの函太郎、鮨覚、清次郎も立地。半径1キロメートル圏内に6店舗が並ぶ状況が固定化しつつあり、人口15万人台の地方都市としてはかなりの高密度といえる商業集積となっています。

弘前市城東地区の回転ずしチェーン店の分布(2025年12月現在、地理院地図を元に制作)
弘前における回転ずしは1990年代からローカルチェーンや地元資本の店舗がロードサイドを中心に出店し、徐々に市場を開拓。ここに割って入ったのが、城東第五地区開発に合わせて進出した清次郎でした。これまで、いわゆる100円ずしに象徴される「低価格で手頃、そこそこの味」がセールスポイントだった回転ずしに、高品質という選択肢を提案。同じく城東第五地区に出店した鮨覚、いち早くバイパス沿いに店を構えた函太郎といった後発店舗も「プレミアムな回転ずし」というセグメントで支持を得ていきます。一方で低価格を売りにしていた既存店は徐々に姿を消していきました。

弘前市内で複数店舗を展開していた「市場寿しチェーン」の店舗(1999年撮影、写真提供=弘前商工会議所)
函太郎、鮨覚が登場した翌年の2008年、当時の業界最大手・かっぱ寿司が弘前に上陸。堅田バイパス沿いと安原地区に相次いで店舗展開しました。このうち、かっぱ寿司安原店は鮨覚安原店の目と鼻の先に立地し、回転ずし競争が過熱します。かっぱ寿司はNCならではの徹底した低価格で、これまで100円ずし店舗が吸着していた顧客層を獲得。しかし、くら寿司、スシローの参入で一気に情勢が変化します。さらに2022年には業界2位のはま寿司が出店、城東エリアは大手チェーンがしのぎを削る一大激戦区となりました。人口比でみた店舗密集度は全国屈指と言えるでしょう。

かっぱ寿司の2店舗は激戦区を貫く国道7号の支線にそれぞれ立地(2025年12月現在、googleマップを元に作成)
城東エリアの6店に加え、回転ずし店舗がある堅田・安原の両地区は弘前バイパスから1本でアクセスできることを考えると、過剰供給の様相ともいえます。2025年現在で各店が営業を維持しているのは、それだけ回転ずしチェーンへの引き合いが強いとみるべきでしょう。
ここまで、弘前市内でのチェーンストア展開について考察を交えて追ってきました。では実際に、弘前の人々はチェーン店に対してどのような意識を持ち、どのように利用しているのでしょうか。利用シーンが多岐にわたり、志向が表れやすいと考えられる飲食店に絞り、「外食に関するアンケート」と題して、傾向を調査しました。
質問項目
・「外食好き」の自己評価(5段階)
・チェーン店と地元店との利用割合
・チェーン店、地元店それぞれを選ぶ理由
・外食チェーンのジャンル別利用頻度
・使用金額
・回答者属性(性別、年齢、居住地、職業、世帯構成)
有効回答は記事公開時点(2025年12月29日)で25。弘前の人口に対しての標本数として信頼性が担保できる400程度には程遠いですが、得られたデータをもとに傾向を暫定的に分析してみました。
※より確度の高い分析のため、回答のご協力をお待ちしております。今後、得られたデータ量に応じて分析結果を更新する場合があります。
単純に「チェーン店が好き」ではなく、生活インフラとして依存していたり、チェーン店特有の機能を求めて利用選択している側面が強い。



結論としては「弘前の人々は、チェーン店自体を好きかどうかはさておき、チェーン店が立地するための経済合理性を支えているのは確かである」となりました。
ここからは、有識者の視点から「弘前市民とチェーン店」の関係性を深堀りします。松屋の熱狂的ファンとして知られ、弘前経済新聞の記事にも複数回登場している、Xアカウント「水(みくまり)分」さん(_39ML_)にお話を伺いました。
みくまりさん

埼玉県出身。大学進学を機に弘前市へ移住。高校時代に魅せられた松屋が当時の青森県にないことを嘆き、同人誌「弘前に松屋を勝手に呼ぶ本」(前・後編)を著す。日本各地の都市交通や集落にまつわる地理・風土を独自の視点でとらえた文筆活動と松屋通いを続ける。
「松屋」の秋田県進出に弘前市民から喜びの声 最寄り店までの距離が半分に
弘前の大学生が「空想地下鉄マップ」作成 「発展した弘前市」題材に
私が弘前に移住して、2025年で9年になりました。外から弘前に来た人間として、また一人の生活者としてこの街を眺めてきて感じているのは、チェーン店と弘前の人々との間にある、独特の距離感です。
松屋の弘前開業の当日は、朝5時くらいから開店待ちの人が並び始め、徐々に列ができました(編集部注:みくまりさんは先頭)。それまで街になかったけれど名前は知っている、そんなチェーン店が現れた際の「行ってみよう」という、弘前の人々の積極的な雰囲気を感じ取りました。
ただ一方で、それを諸手を挙げて歓迎しているかというと、全てを受け入れているわけではないような気もするのです。私はこれを「針の短いハリネズミ」のようだと思いました。好奇心は強くて「気になるから行ってみよう」と近づく。でも、完全に心を許しているわけではなく、少し警戒して針を出している。例えば、新しいチェーン店にとんかつのメニューがあったとしても、「とんかつなら地元の〇〇がおいしいから、そこでは食べなくていい」と、既存店のメニューやサービスと競合した時には「元からある地元のお店」を志向する傾向にあるのかな、と思います。それは特に年齢層が高い方ほど、地元に対する思い入れの蓄積がある分、強く見られる気がしますね。逆に、そうしたしがらみがない学生や私のような移住者は、すんなりと受け入れているようにもみえます。「弘前の人のチェーン店好き」は、一概には言えないですね。
弘前はNCの競合が多いながら、それぞれの定着率が比較的高そうだ、という点は不思議に思います。そこは弘前という街のコンパクトさや、街の構造に秘密がありそうです。弘前は板柳や藤崎といった周辺の町や、秋田県北からも流入があって商圏人口は思いのほか大きい。バイパス沿いを中心にNC店舗の競合は多いですが、その中である程度お客さんが浮遊して利用する店舗を選ぶような、流動を生みやすい環境ができていると感じます。
また、弘前はバイパスという太い柄から、旧市街や住宅地へ向かう道路がくしの歯のように伸びており、店舗がバイパス沿いだけでなく、そこからにじみ出るように、旧市街との結節点や生活道路沿いにもNC店舗が立地しています。NC店舗の立地がロードサイド一辺倒になるような街が多い中で、街の中心部にもNCが入り込んでいるのは弘前の特徴です。例えば、松森町にあるドミノピザ(弘前松森町店、2023年~)が面白いですね。青森市内からは撤退しましたが(2024年)、弘前市内は営業が続いていて、その上、弘前の店舗は、立地でいえば「え、ここに?」と思うような場所。おそらく他の都市ではNCの店舗が立たないような場所でも弘前では成立している気がします。

ドミノピザ弘前松森町店のある松森町交差点。国道102号に続く県道109号と、土手町など弘前市中心部に続く県道260号の十字路になっている(googleストリートビューから引用)
逆に他の都市を見るに、弘前であればNCの店舗がありそうな場所には、すでに撤退したり、あるいはそもそも進出していない理由でNC店舗がないことが多いと感じます。街の中にチェーン店の息吹が入り込んでいて、だからこそ地場の消費者にとっては選択肢に入りやすく、なんとなく使い続けられているのかもしれません。
弘前の人がチェーン店好きだから店舗がある、という理由だけではなく、NC側にとって弘前という街そのものが、出店戦略にはまっているという可能性もあります。「出店モデルのテストには静岡県を使う」という話があります。消費者の構成や地理など、あらゆる面で「日本の平均」のデータが取れるという理由ですが、もしかすると「地方都市の出店モデルをつくるなら弘前がいい」という、一般に知られていない指標があるのかもしれません。このあたりは考えていくと、とても面白いですね。
ただ弘前市内で多数のNCが店舗を展開している、この状況が将来どうなるかについては、少し危惧している部分もあります。実際の人口に対して商圏人口が大きいことから、街単体としてみると、現在のNC店舗の種類や数は供給過多にも見えます。人口が減っていく中、生き残りやすいのは地元の店舗よりも資本力があるチェーン店でしょう。今はまだ、地元のお店とチェーン店が共存していますが、地域の購買力が衰えたどこかでそのバランスが崩れ、チェーン店ばかりが残るようなことにならないだろうか、という懸念は無視できません。
チェーン店を否定するつもりはまったくありません。私自身が松屋のファンで、少なくとも週に一度は松屋に行きますし(笑)。ただ、どこかで「弘前らしさ」や「地元のお店の良さ」が、利便性という波に飲み込まれてしまわないか、気がかりではあります。全国には、地元の商店がすべて閉まってしまい、コンビニ1店舗だけがぽつんとあるような町が散見されます。そのような自治体の商業地図を、仮に地方都市の大きさまで引き延ばしてみて、そこに未来の弘前が重なってしまうとしたら、自分としてはかなり嫌ですね。
これは弘前だけの話ではないですが、ある商売で後継者不足などを理由に閉店せざるを得ない店舗があって、需給のバランスが崩れたところにチェーン店が滑り込んで需要にこたえていくような状況もあります。言い換えると、自分たちの街の商業を自分たちの手で支えられなくなったところにチェーン店がはまり込んでくる。幸い、弘前にはまだ力があって、これからバランスを取ろうと思えば取れる街だと言えます。理想は、チェーン店と地元のお店が、ちょうどいいバランスで共存し続けることですね。
1976年、「黒船」イトーヨーカドー弘前店の開業と共に幕を開けた弘前のチェーンストア史 。開店初日に延べ5万人が押し寄せたという熱狂は、NCが単なる商店ではなく、未知の価値や都会への憧れをもたらす「文化」として迎えられたことを象徴していました。あれから半世紀。80年代のバーガーショップラッシュ、90年代のコンビニ網拡大を経て、さまざまなNC店舗が定着した現在の環境が成り立ちました。
一方で、アンケート調査の仮分析からは「弘前市民はチェーン店好き」という言葉だけでは片付けられない、市民の実利的な利用実態の一端が浮かびました。子育て世代は「子供連れでの入りやすさ」という安心感を求め、ワーカー層は早朝・深夜の空白時間を埋める選択肢としてチェーン店を利用している傾向が強いです。
チェーン店は、弘前の人々の生活基盤の一部として深く根を下ろしていると言えます。一方で地元資本の店舗にも愛着を寄せている層が一定数おり、利便性へのニーズと「地元の味」を支える消費者志向が均衡をとっている側面も見えました。ただ、現状のNC店舗への入り込みや今後見込まれる地域購買力の衰弱をみると、この均衡は将来にわたって長続きするとは限りません。
足元の景況感に目を向けると、青森県内の企業倒産件数は2022年から連続で増加傾向にあります。2024年には13年ぶりに70件台を記録し、2025年も80件台に迫る勢いで推移するなど、地域経済の先行きは予断を許しません。人口減少が加速し、市場が縮小していくこれからの時代、資本力のあるNCとは対照的に、地元資本の店舗経営はいっそう厳しさを増していくことでしょう。
消費者の「チェーン店志向」がこれ以上強まることは、すなわち地元店舗の存続に決定的な影響を与えることを意味します。利便性や経済合理性だけを追求した先に待っているのは、地元店が姿を消し、画一的な看板だけが立ち並ぶ風景かもしれません。藩政時代からの歴史が今に残る弘前という街にとって、この状況は決して望むべきものではありません。日々の「食べる」「買う」という私たちの選択の一つひとつが、この街の未来の姿を形作っているという事実に向き合うべきかもしれません。(編集局記者・福田藍至)
資料協力:陸奥新報社、弘前商工会議所
【追跡調査にもぜひご協力ください!】