
講演会「安彦良和と弘前」が5月26日、弘前大学創立50周年記念会館みちのくホール(弘前市文京町1)で開催された。
弘前大学出身の漫画家でアニメーション監督の安彦良和さんは大学時代、学生運動に参加したことから4年生の時に退学処分を受けた。講演会では安彦さんの同窓である精神科医で、沖縄・那覇や福島・相馬でメンタルクリニックの院長などを務める蟻塚亮二さんも登壇し、安彦さんの戦争観や歴史観について討論した。
安彦さんによると、1960年代の学生運動によって日本国内では対立が顕著化し、自身も学生運動に身を投じたことに今は疑問を持っているという。安彦さんは「戦争を体験した私たちの親世代が戦争を語らないことに疑問があったが、傷ついた心を忘れることで成り立っていたのが日本の戦後だった」と話す。
蟻塚さんは、沖縄で不眠症に悩む高齢の患者が増え、そのほとんどが戦争体験者だったと語る。「戦争体験者に発症するPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、アメリカの学会などでは3年以内に発症するとしているが、50年以上たっても発症するケースがあった。巨大なトラウマに対してどのように癒やしを与えることができるのかが社会の課題」と蟻塚さん。
安彦さんは蟻塚さんの体験談を踏まえ、「私たちの親世代が寡黙だったからこそ、日本の戦後は平穏だったのかもしれない。現在は対立の時代ではない。導いてあげることが大切」と話し、講演を終えた。
安彦さんのトークイベントで司会や進行を務めた青森県立美術館の元学芸員で田川市美術館館長の工藤健志さんは「今回のトークイベントが一番、安彦さんが次世代に伝えたかった内容になっていたのでは」と話す。
同講演会は、青森県立美術館(青森市)で開催中の企画展「描く人、安彦良和」の関連イベントとして行われた。