スウェーデンのヨーテボリ大学に在学中の後藤小夜華さんが8月22日、津軽こぎん刺しとスウェーデンの二重編みをテーマにした論文を発表した。
津軽こぎん刺しは津軽地方に江戸時代から伝わる伝統的な刺し子技法で、幾何学模様を縫い付け、当時は綿布を身に着けられなかったため、防寒対策の一環として生まれたという。スウェーデンの二重編み「Tvaandsstickning(トヴォーエンズスティックニング)」は、英訳の場合、「Twined knitting」や「Two end knitting」などと表記され、伝統的な手芸技法となる。
後藤さんは「スウェーデンでまだあまり知られていない津軽こぎん刺しと、日本であまり知られていない二重編みを紹介したかった」と話す。
後藤さんは愛知出身で2000年からスウェーデンに移住。東日本大震災をきっかけに手芸を本格的に学ぶようになったという。「自分に何もできないことがもどかしかった。アイスランドから被災地にアイスランドロピセーターが送られたことや、『気仙沼ニッティング』というプロジェクトがスタートしたといったニュースを知り、手芸を通じた人のつながりやあたたかさに感銘を受けた」と後藤さん。
現在は、ヨーテボリ大学の学士プログラム「Ledarskap i slojd och kulturhantverk (手工芸や文化工芸品におけるリーダーシップ)」で学位を取得し、「Hemslojdskonsulent(手工芸コンサルト)」の資格を得て、学業を続けながら就職活動を行っている。
自身の論文について、後藤さんは「津軽こぎん刺しは日本の手工芸を調べているうちに知った。スウェーデンの二重編みに使われている伝統的な模様が津軽こぎん刺しの幾何学模様にとても似ていたことや、どちらも一部の地域でのみ伝えられており、布地を丈夫にしたり寒さを防いだりすることを目的に技術が発達したという共通の歴史もあり、大変興味深かった」と話す。
執筆に当たり、両国の職人や作家へのアンケート調査などを行ったという後藤さんは「職人や作家レベルではどちらも手工芸に対する感覚に多くの共通点があり、次世代に技術を伝えていくという認識も同じだったが、無形文化遺産や文化保全という点では、国レベルで考え方が違うと感じた」と話す。
後藤さんは「ヤノミエコさんという日本人がスウェーデンで日本の編み物を教えていたことや、津軽こぎん刺しにインスピレーションを受けたと公言するスウェーデン人もいたことがうれしかった。日本の手工芸はスウェーデンだけでなくヨーロッパでも人気が高く、今後、手工芸を通じた文化交流が広がっていくのでは」と期待を寄せる。
「青森には残念ながら縁がなかったが、津軽こぎん刺しを取り上げたことで、職人さんなどの多くの方と知り合う機会を得た。皆さんは本当にあたたかく協力していただいたことは、青森ならではなのかもしれない。津軽こぎん刺し以外にも、あけび蔓(つる)細工や津軽塗などの工芸が多くあることも青森の魅力。機会があればぜひ行ってみたい」とも。
後藤さんの論文は現在、ヨーテボリ大学電子出版アーカイブに保存してある。