弘前の喫茶店「名曲と珈琲ひまわり」(弘前市坂本町)が7月17日、創業60年目を迎えた。
創業当時の店舗図案。店の前には赤いキャデラックが描かれている
1959(昭和34)年に開業した同店。店内には初代店主で創業者の三上登さんが集めたという絵画や陶器のコレクションが並ぶ。登さんの妻で二代目店主の三上千壽子さんによると、ステレオが家庭に普及する以前からレコードでクラシック音楽を流し、自家焙煎のコーヒーを提供していたという。入店待ちの行列が土手町通りまで続いた時期もあったという。
千壽子さんが結婚したのは1971(昭和46)年。「結婚当初は店を手伝わなくていいという条件だったが、2カ月後には手伝うことになっていた」と千壽子さん。「一度覚えたことは忘れない自信だけはあった。次第に夫婦で店を切り盛りするようになった」と振り返る。
鍛冶町に支店を出したことや客席数が150席以上の時もあったという。22時まで営業し、スタッフは2交代制。一日に3度も通うリピーターや店内でライブイベントを開くこともあった。音楽を楽しむためのヘッドフォンを設置したブースや店内で流すレコード曲は週替わりで、飲食メニューのほかに音楽プログラムも用意していた。
店内の雰囲気はなるべく創業当時のまま残すことを心掛け、2009年には弘前市が選ぶ「趣のある建物」に指定された。入り口は千壽子さんのアイデアで現在の場所になった。「レジカウンターに近い場所に入り口がありショーケースを設置していた」と千壽子さん。メニューのアイデアは千壽子さんが提案することが多く、夫の登さんが試作を重ねてメニュー化した。「とうふチーズケーキ」(350円)は現在も人気を集めている。
営業60年間で、店内で流す曲はレコードからCDに変わり、コーヒーは60円から430円に値上げした。昨年から全面禁煙し、営業時間は18時30分までに短縮。「純喫茶」と呼ばれる店が全国で減少していく中、2007年秋には登さんが他界。一時は閉店を考えこともあったという。千壽子さんは「息子が手伝うと東京から戻ってきたことや常連客の支えがあって続けてこられた」と話す。
「3世代で通う客や関係のないリピーターが実は兄弟や友人だったというケースもあり、人の出会いは面白い。大学時代に常連客だった男性が、娘を連れて四国から訪れることもあった。近年は50年ぶりに訪れたといったオールドユーザーが増えている」とも。
千壽子さんは「60年もよく店を続けることができたと思う。今は、東京で新しいお店を見たり美術鑑賞をしたり、自分の時間を増やしたい」と笑顔を見せる。
営業時間は10時30分~18時30分。木曜定休。