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【青森県立美術館】富野由悠季インタビュー「新作をやらなければいけないと感じた」

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青森県立美術館で現在開催中の「富野由悠季(とみのよしゆき)の世界:ロボットアニメの変革者」は全国6カ所で行われた企画展である。「機動戦士ガンダム」や「伝説巨神イデオン」などの社会現象となったロボットアニメで知られる富野由悠季さんをテーマに、絵コンテやシナリオなどの約3000点もの資料を展示。青森会場を内覧した富野さんに話を聞いた。

目次

1.「富野展」を富野由悠季はどう感じたか?
2.富野由悠季80歳の心境
3.地方から始まった「ガンダム」
4.ロボットアニメがあったから犯罪者にならなかった
5.編集後記

1.「富野展」を富野由悠季はどう感じたか?

――青森会場をご覧になっていかがでしたか?

この企画展は福岡、兵庫、島根、静岡、富山、青森の6館目。それぞれの展覧会には学芸員の個性や美術館の特性があり、びっくりしました。うまく説明はできないけど、青森会場は作品ごとに区分けをしたものの、スタッフの仕事が見えるような展示方法で、小さな作品でも個性が際立つように配列している。初めて見る展示物だと思っていたが、聞くと他に会場でも置いてあったとか(笑)それくらい絶妙な置き方だった。

「ガンダム DX合体セット」が展示されていたことに興奮していた富野さん「ガンダム DX合体セット」が展示されていたことに興奮していた

――すでに8000人以上の来館があったようです

たいへんありがたい話ですが、最近のヒット作には負けているのでくやしいね。

――自身の名前を冠した展覧会は初だったという話ですが

今までこのようなオファーはなかったんですよ。まして僕のような世代は、公立の施設である県立美術館での、さらに言えば、絵描きでもない人間の名前を冠した展示会などは、想像を絶するものでしたから、信じられませんでした。

――最初は依頼を断っていたという話は本当でしょうか?

僕は演出家であり、絵が描けるわけではない。だから見せるものがありません、とお話をしただけ。うれしかったけれど、何をやるのかわからなかったので「どうして?」と聞くと「好きだから」「ばかじゃないの(笑)」といった押し問答はありました。「我々がやりますから、出せるものだけ出してください」と学芸員の皆さんからお願いされて、それをどうまとめるかは見てみたかったですね。

自分の作品ともいえる展示物を興味深く鑑賞していった富野さん自分の作品ともいえる展示物を興味深く鑑賞していた

――実際形になってどう感じましたでしょうか?

この展覧会は、アニメで育った学芸員たちによって企画されました。彼らの中にコミュニティがあるようで、「富野展をやろうぜ」と盛り上がっていたらしいです。そんな人たちと僕が出会ってしまった。学芸員だからこそ、今までとは違うフィールドでガンダムが紹介されています。今までというのは、アニメ関係者が作り出したものとは違うし、オタクが作った展覧会でもないということ。そして、美術という枠も超えたような展示になっているところです。

厚いとんでもない展覧会のカタログがあるんですよ。僕は絶対買わないけど(笑)。美術館連絡協議会が顕彰する「優秀カタログ賞」にも選ばれました。自分が素材になっているものがこのような評価をもらったことで、自分がそれらの題材となりうるものを作ってきたのだろうかと改めて突き付けられたものがあった。勉強になっただけでなく、「へえ、トミノってこんなことやっていたんだ」と気づきはかなりありましたよ(笑)。

青森県立美術館の工藤健志さん(右)から説明を受ける富野さん青森県立美術館の学芸員・工藤健志さん(右)から説明を受ける

2.富野由悠季80歳の心境

――新たな創作意欲や刺激になりましたか?

そんな生やさしい気持ちではない。創作意欲という話ではなく、まだ死なないんだから作らなければいけないという強迫観念のようなものを感じました。逆にありがたいことでもあります。過去の自分に対して整理することもできる自己確認もあったし、新発見もありましたね。

つまりガンダムの富野だから、まだ死なないうちはそれに見合ったものを残さなければいけないという枷(かせ)となったのです。今年80歳だけど、いやでも新作を作ってみせる。そう思わせてくれたのは、ほんとうは勘弁してほしい(笑)

今年で80歳になるとは思えないパワフルな富野さん今年で80歳になる富野さん

――こういった美術館での展覧会ができたことは力になった?

プライドにはなりますね。自己満足にもできる。なまじの美術館ではないから。しかし、それに見合っているのだろうかという自問自答もあったのは、自己満足してしまえばおしまいでしょ?学芸員たちが作ってくれたこの雰囲気が、自分の背中を押してもらっているようなイメージはあります。だからこそ僕は病気をしないで済んでいるのかもしれないのだから、宮崎駿監督や庵野秀明監督に負けてはいられないという圧力を感じます。

――青森県立美術館自体も何か刺激になりましたか?

この美術館をデザインした方は、この土地のことをよく知っていますね。地方自治体がこういったものを作ることで、学芸員にプレッシャーを与えて育てているといった側面もあると思いました。東京ではやっているようでやっていない箱物で素晴らしい。

――展覧会によって生まれるような新作はありますか?

展示されているものの中で、新作のシナリオをやっているものがあります。このタイトルは手をつけてなかったよね、というものを。それはここに来て探してみてください。

青森会場の目玉の一つ原寸大「リ・ガズィ」バルーン青森会場の目玉の一つ原寸大「リ・ガズィ」バルーン

3.地方から始まった「ガンダム」

――今回の展示会は地方のみで東京開催はないようです

そうらしいですね。東京発ではできなかったのは単純に、メジャーにアピールできるだけの力がなかったからです。謙虚ではなく、事実として受け止めています。分かりやすい事例では、「機動戦士ガンダム」は名古屋テレビという地方局の発信だった。今回の展覧会で、ガンダムには地方が持つエッセンスが大事ということが分かったので、うれしいんですよ。

青森県立美術館入り口に掲げられた富野さんの巨大バナー(写真提供=青森県立美術館)青森県立美術館入り口に掲げられた富野さんの巨大バナー(写真提供=青森県立美術館)

――地方が持つエッセンスというのは?

東京発でやる時はよほどの才能がないと東京の圧力に負けるんですよ。ガンダムは地方局だったからこそ、許容量を持って自由にやらせてもらって、それは力がなかった僕には合っていたという自覚はあります。

しかし、一番重要なのはスタイルや発信局という問題ではなく、作品自体に力があるのかどうかということに気づかされたことです。在京局はもちろん一流のものが多いが、すべてが一流ではなく、中には環境に満足しているエラそうな人がいたり作品の力ではない人気作品があったりします。地方だからこそ東京発の流行とは違ったものがあり、突き詰めていくと、意外と強いものになっていくのではないかなと感じることもあるのです。

来館時、原寸大「リ・ガズィ」バルーンのどこかにサインを施した「リ・ガズィ」バルーンのどこかにサインを施した

――東京発がすべてではなく、地方からでも流行を生み出せるということでしょうか?

そういうわけでもない。僕みたいなフリーランスは抗ってはいられないのです。ヒット作を作らなければいけないという至上命令があり、それを遂行しているつもりはあるんです。ガンダムの富野は運よく命拾いをしたんですね。

その点、庵野監督はえらいですよ。ロボットアニメとぬけぬけと言いながら100億円を稼ごうとしているのだから。てめえ!本当はそういう気分かって、こういうことは地方だから言えるんです(笑)そういうことです。

4.ロボットアニメがあったから犯罪者にならなかった

取材時にさまざまな話題に広がった取材時にさまざまな話題に広がった

――今注目しているコンテンツはありますか?

CGやVRといった技術は気にしていません。技法に振り回されるつもりはないから。作品制作は工芸職人のようなことで手作りが基本です。デジタルで作られたものは工芸的な映画ではない。こんなことを言うと炎上するから僕はホームページを持っていません(笑)

――富野さんにとってアニメとは?

僕はアニメという手法があったからこそ命拾いをしました。犯罪者にならなくてよかったと今でも思います。フラストレーションを晴らすことができたという意味でです。

庵野監督もロボットアニメがあったからこそフラストレーションを晴らすことができているのではないだろうかと想像します。実写だとこれはカルトになるけれど、アニメにすることで過激なことをやっていても中和されます。アニメにすることでたまっていたものを解消することにつながっているという作用は強いですよ。

僕の場合、戦争を体験した世代だから、戦争が沁みついています。同年代の宮崎監督はインテリで、学識が深く幅広いため意識して戦争から離れようとしているけれど、離れられない几帳面さを感じますね。

アニメの仕事は自己表現というより、フラストレーションを晴らす行為。僕は反戦を掲げなくても、戦争を表現することができたと思っています。アニメでやると戦争にならない。ロボットアニメになる。庵野監督の「エヴァはロボットアニメ」という発言もそういうこと。リアルに心情を暴露できているのは、ロボットアニメだからこそできているんです。そして、世代の違いで描くものも変わります。「シン・ゴジラ」が反戦ではないことがまさにそれでしょうね。

4メートルのシド・ミードのデザイン画も展示する4メートルのシド・ミードのデザイン画も展示する

――青森が最後の会場となり、これから来る人や考える人にメッセージをお願いします

この展覧会はここで今しか見られないという、ライブの良さがあります。来てくださいとはこのコロナ禍では言いにくいが、過去の展示を見た人はぜひ青森も比較しに来てください。初めての人は青森を見た後に過去の展覧会も見てください。しかし、ライブですからそれはできません。

何を言いたいかというと、もし今後「富野由悠季の世界」という展示会があったら面倒くさがらず足を運んでくださいということです。傲慢な言い方ですが(笑)

――青森会場では樋口さんとの対談企画があります

年寄りの話を聞きに来るのはやめなさい(笑)。樋口監督とは話が合わないから益のある話はできないでしょう。まさにさっきの世代論で、共通の話がない。どういうふうに話をしていったらいいのか。それがおもしろいのかもしれないけれど……。

――本日はありがとうございました。

編集後記
取材時に書けないようなことを何度もさらりと話す富野さん。80歳とは思えない頭の回転とパワーを感じた。最近見た映画の紹介や読んだ小説の話など。話題は次々と広がり、こちらの意図する回答以上のことを話し、言葉選びも巧みだった。
アニメ業界をけん引し、現代文化にも多大な影響を与えた。半世紀以上にも及ぶその功績が濃縮された「富野由悠季の世界」は一日かけてもすべて見切れるものではない。一度見た人も二度目三度目では、また違った印象を感じるだろう。名画とは世代を超えて見てしまうもので、その時その時に感じ方や受け取り方が変わっていく。富野作品はそんな名画の条件をどれも満たしていることを改めて感じさせてくれた。

 

富野由悠季の世界:ロボットアニメの変革者~ガンダム、イデオン、ダンバインからGのレコンギスタまで

【会期】~2021年5月9日(日)
【会場】青森県立美術館
【住所】青森市安田字近野185
【休館日】4月26日(月)
【開館時間】9時30分~17時(入館は16時30分まで)
【観覧料】一般1,500円(1,300円)、高大生1,000円(800円)、小中学生以下無料

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