皆さんこんにちは、青森県のダンス&ボーカルユニット「りんご娘」の彩香です。私たちの住む青森県は、りんごを中心に全国有数の農業県として知られています。そんな農業をアートして楽しむユニークな美術展があると聞き、青森県立美術館(青森市安田)にて12月1日まで開催されている企画展「青森EARTH2019:いのち耕す場所」に訪れました!
目次
1.企画展「青森EARTH2019:いのち耕す場所」とは
2.りんご農家おなじみのアイテムがアートに
3.りんごそのものが芸術品
4.「農民芸術」の今と昔
5.農業×催眠術?
6.子供たちの版画作品からみえる農業の「協働」
7.米をテーマにした壮大な芸術作品たち
8.「0と1の世界」に生きる人たちの企画展
美術館入口前の大きなポスターフラッグ
青森の大地に根ざしたアートの可能性を探究するシリーズ企画「青森EARTH」のひとつであり、農業がテーマという今回の企画展。造形や絵画、映像など様々なアート作品が農業とコラボすることで「芸術を楽しみながらこれからの社会づくり、自然との向き合い方に思いを馳せてほしい」という思いが込められています。
そもそもなぜ農業がテーマなのか。青森県立美術館学芸員の奥脇嵩大さん曰く、「自然が豊かな青森県は、古くより冷害や飢饉に立ち向かいながら農業の栽培技術や思想を発達させてきました。身体ひとつ、知恵ひとつで大きな役割を担い続けた生産者の方々を意識しつつ、農業をアートとして紹介するのが今回の展覧会なんです」とのこと。
私たちが生きる上で欠かせない農業をアートとして捉えるなんて、斬新で面白い取り組みですね。そんな企画展を100%、いや120%楽しみたい!ということで、今回は奥脇さんの解説をお聞きしながら会場をまわってみました。
企画展の会場は美術館2Fですが、1Fのエントランスから展示は始まっています。青森県立美術館の特徴である真っ白い空間に、インテリアを並べたオシャレな空間……。実はこれ、普段私たちがよく見ているようなものばかりなのです!
りんご箱の木材で作られた机や椅子などの展示エリア
このエリアはりんご農家おなじみのりんご箱や出荷資材などを使った展示品が並んでいます。「アートだからと構えず親しみのある展示品も置きたかった」という奥脇さんの言葉通り、思わずクスッと笑ってしまうような展示品もありました。
例えば、りんご箱の木材で作られたテーブルに何か可愛い模様があると思ってよく見たら、りんごを出荷するときに貼る品種シールがたくさん。
「ジョナゴールド」の出荷シール
こうして見るとシールごとにデザインも違っていて、カラーバリエーションも豊富ですね。ジョナゴールド、とき、王林までは見つけましたが、残念ながら彩香はありませんでした……(笑)。
品種ごとに作られた出荷スタンプ
気を取り直して他の展示を見ていると、隣にはダンボールに押す出荷スタンプが。今度はあるかなと注意深く見てみると……ありました!
自分の品種を見つけてホッとする私
これでメンバー4人揃いましたね(笑)。すぐ横に記念スタンプを押せるので、是非試してみてください。その他にも贈呈品として送る「絵入りりんご」をつくるためのシールや、りんご箱を歴史がわかる展示コーナー、りんご農家の天敵であるカラスや飛んでいる蜂の模型もあり、まるでりんご畑にいるような空間を楽しめますよ。
カラスも嫌がるというリアルな蜂の模型
歴代のりんご木箱とカラスの模型
馴染みのある芸術品にほっこりしたところで、いよいよ企画展の中に入ってみましょう。会場の展示は大きく5つのセクションがあり、順番に回ってみたのでその一部をご紹介します!
ここからスタートです!
セクション1「ひと玉のりんごから」のテーマは、その名の通り「りんご」。今や青森県は弘前市を中心に、国内生産量6割を占める全国一のりんご生産地です。明治8(1875)年に西洋から3本のりんごの苗木が植えられ、そこから約140年もの歳月をかけて、世界に誇るりんご王国ができたのは農家の皆さんの努力があってこそ。そんな努力の結晶を、芸術という観点から見た作品が展示されています。
「ひと玉のりんごから」展示エリア
真っ白な空間(ホワイトキューブ)の正面に、厳重に展示されている赤い物体が。そこには、たった1個のりんごが飾られています。これを作ったのはドイツを拠点に活動している美術作家・雨宮庸介さん。りんごをモチーフにした彫刻作品やパフォーマンス作品などで「りんごの作り方から世界の成り立ちを考える」ことを表現しています。どういうこと?って思いますよね。
雨宮庸介「りんご(普遍性)2019」
実は、りんごは色々な美術作品のモチーフになっています。西洋の美術作家・セザンヌがりんごを様々に描くことから新しい美術を拓いたことを例に挙げ、雨宮さんはりんごを探究することは美術や世界を支える見方に繋がると考えるようになったと言います。
芸術品として見るりんご、を見るりんご娘
そして、ひとつひとつ丁寧に手をかけて作られる青森のりんご栽培を見て、「もうこれは農作業ではなく美術作品だ」と考え、作られたのがこのりんごです。ちなみに、このりんごに品種はないそうで、「どの品種にも似ていないけど、どの国の人が見てもこれはりんごだ」と言えるような作品を手掛けられたそうです。普段当たり前にあるからこそ、こんなにまじまじと見ることがない分、りんごの美しさを感じますね!
りんごの神秘に感動していたら、同じ空間にぽっかり開いた穴を見つけました。中を覗いてみると……。
覗いてみると……?
壁の向こう側には、不思議な部屋がありました。ここは「林檎と普遍性について」というインスタレーション(空間も含めて作品とみなす手法のこと)で、美術とりんごについて考える部屋になっています。机の上に無造作に置かれたペンや書籍、映像などで構成された部屋を見ると、りんごの研究に没頭している芸術家を想像してしまいます。
雨宮庸介「林檎と普遍性について」
「美術館でりんごを美術作品のように見ることで、普段の物の認識の仕方が変わる楽しさを感じてほしいと」と奥脇さん。面白いものや大切なものはすぐに近くにあるというメッセージにも聞こえて、ハッとする瞬間でもありました。
さて、ここまではりんごを通して「もしかして農業と美術って繋がっているのかな」という興味が生まれてきましたが、次のセクション「土と心とを耕しつつ-『農民芸術』いまむかし」では、「確かに繋がっているかも」と思わせてくれるような展示作品が並びます。
絵画や書籍が並ぶセクション2展示エリア
ここには昔、農業と美術は繋がっていると考えていた芸術家たちの絵画や書籍が展示されていて、作品からそれぞれの時代背景や思想を感じ取ることができます。
例えば19世紀以前の西洋美術において、自分たちの身の回りの営みや仕事を絵画にする発想があまりなく、そうした時代の画家・ジャン=フランソワ・ミレーは自身にとって身近な農家の姿を描き、当時の人々は驚いたそうです。
ジャン=フランソワ・ミレー「耕す人」
また、青森県の浪岡で農作業をしている人たちを描き続けた画家・常田健さんは、実家が米とりんご農家で、家の農作業をしながらずっと絵を描いていました。農業そのものを描くだけでなく、まだ「百姓」と呼ばれていた戦時中の農民の姿や反戦への思いなどが伝わり、考えさせられる作品が多いです。
常田健「ジェット機の下」(左)、「寒い夏」(右)
展示の中でも一際目立っている銅板の展示作品は、「ザ・ユージーン・スタジオ」というアーティストが手掛けたもの。これは農業都市を顕在化する山形市との共同プロジェクト「農業革命3.0」の設計図として制作され、未来の農業技術がどれだけ私たちの生活を良くするかを表現しています。
ザ・ユージーン・スタジオ「Drawing; Model room(for Agricultural Revolution 3.0)」
ひとつひとつ線が刻まれ、銅板のアートになっている
どの作品も正面に立つと、吸い込まれる感覚に陥るほどの存在感。このセクションでは表面的な農業のアートではなく、作品の中の込められた深いメッセージを感じることができました。
続いてのセクション「透きとおる農地で」では、2つの映像作品が放映されています。農業を根本から支える「農地」の現在がテーマになっていて、後継者問題や相続問題などのディープな部分を映像で表現しています。
一つ目は「自由耕作」という作品で、なんと中国の作家が田んぼの中にひたすら飛び込むというパフォーマンスを見せています。
リ・ビンユアン「自由耕作」
これだけを見るとシュールな画に見えますが、実は親が不慮の事故で亡くなり、遺された水田とどう向き合うかを考えた結果、身体全体で耕作を行い、距離を縮めたという衝撃のストーリーがそこにありました。そういう視点で見るとアート作品として、また違う印象を受けますね。
そしてもう1つは、土地所有権に催眠をかけるという何とも不思議な映像空間になっています。
丹羽良徳「土地所有権に催眠をかける」
土地所有にまつわる諸問題(耕作放棄地)について真相を知るべく、関係者に聞き込みを行なった作家・丹羽良徳さんは、そもそもの土地所有権の定義が曖昧で複雑なことに気がついたそうです。そこでアーティストなりの問題への介入手段として催眠術士を招き、土地を持っている人と管理している人の考え方を混ぜこぜにした座談会を開こうとしたら、そもそも催眠術がかからなかったという衝撃のオチが……。
最終的に作家自体が催眠術にかかり、田んぼだった頃の青森県立美術館の周りを歩いて身をもって体験するという構成なのですが、発想が面白すぎてついていくのに必死でした(笑)。この面白さはぜひ現地でご覧ください!
セクション4「共に生きることの先へ」展示エリア
一番奥のセクション4「共に生きることの先へ」には、県内の子供たちが昔作った版画の作品が展示されています。農業や村の暮らしについての作品が飾られているのですが、1つの大きな版画をみんなで完成させている作品を介し、農業の発展に不可欠な「協働」を表現しています。
上北郡六戸町立昭陽小学校6年生「黒土がきえるとき」など、版画作品が並ぶ
戦後の日本は図工教室の中で版画作品を制作する時期があったようで、特に青森はその中心にいました。展示作品は1970年代のものが多いのですが、どれも子供が作ったとは思えない芸術品ばかり。よく見ると部分ごとにそれぞれの個性が出ていて、それもまたいいなと思いました。
農業だけではなく、1つのものをみんなで作るという事に意味がある、価値があるという事を教えてくれるセクションエリアでした。そういう素敵な精神は時代が変わっても、これからもずっと大切ですね。
最後のセクション5「いのちの根、満ちる大地」のテーマは、ずばり「お米」。江戸時代中期に活躍し、青森県八戸市に住んでいた思想家・安藤昌益によれば、「人間は稲の精によって生じたもの」であり、稲こそが命の根であると説いています。それほど人間と結びつきの強いお米ですが、展示作品も興味深いものがたくさんありました。
その一つ、アーティスト集団「オル太」が手掛けたインスタレーション「耕す家」は、自分たちで家を建てて、農業と土器、版画の制作をするという作品です。
オル太「耕す家」
以前は田んぼだった住むことに適さない土地で生活環境を整えながら、日々の農作業や版画などの制作を行い、日々記録しているこのプロジェクト。農作業や版画もそうですが、食事やトイレなどもそれぞれが知恵を出し合いながら、土の上での生活を送っている様子がとてもたくましいです。
「耕す家」の内部には日々の生活記録が
昔から農民は年貢をとても多く払っていたので、農家は侍よりも偉いと言われる時代もあったそうです。そんな偉大な農民たちが紡いできた知恵と技術を、今の時代に体験することで、農業の必要性、素晴らしさを改めて感じますね。
そして、同じセクションには子供も喜びそうなコーナーも。それが「現代農耕文化の仮面」で、農作業の道具で作られた仮面が展示されています。祖先の霊や精霊をイメージして作られたという仮面の中には、私たちにも馴染みのある動物に似ているものも潜んでいますよ!
久保寛子「現代農耕文化の仮面」
作業手袋で作られたゴリラ?
ネットやブルーシートで作られた豚?
コメやヒト、男と女のように、異なるもの同士が調和して生きていくという思想の中には、世界中の農業民族が制作している仮面がヒントになっているというこの作品。誰でも楽しめるおすすめのフォトスポットです。
続いてぜひ見てほしいのが、「マメコバチ」の展示。りんごの受粉のお手伝いをしてくれる優秀なハチですが、拡大版にもなるとその独特なフォルムに驚きます(笑)。
塚本悦雄「AMoA 0-107」
この他にも壁に張り付いていたり、大理石になっていたりと抜群の存在感がありますので、ぜひ企画展エリア内を探してみてくださいね。
そして、最後にご紹介するのは青森県立美術館発の地域アートプロジェクト「アグロス・アートプロジェクト」で製作された作品です。
大小島真木+アグロス・アートプロジェクト「明日の収穫」
画家の大小島真木さんを筆頭に、県内外から集まったプロジェクト参加者が美術館内でお米づくりを経験し、できた収穫物をもとに1つの巨大絵画を完成させました。
アクリル絵の具や藍染の他、米を原料にした絵の具も使って描かれている
高さ約4.6m、幅約9.8mにも及ぶ巨大絵画のテーマは「青森の農業と自然の壮大な輪廻」。様々な姿をした人やモノ、精霊たちが協働で農作業を行う姿を見て、すべての生き物は大地から命をもらい、この世界に暮らしていることを実感します。ひとつひとつが本当に緻密に描かれていて、それぞれのストーリーを妄想したくなるほど見応え満点です!
「輪廻」というテーマはとても深く、小難しいイメージもありましたが、考えてみれば農業 も絵画の製作も、はたまた私たちりんご娘の活動でさえゼロから始まり、完成されたモノが生まれ、またゼロからのスタートを繰り返していますよね。そんな生のサイクルにハッとさせられる、企画展の最後に相応しい、とても説得力のある作品でした。
ここまで企画展の展示作品をほんの一部ご紹介してきましたが、いかがでしたか?私たちにとって身近なものが多く、普段あまり美術館に行く機会のない私もとても楽しむことができました。
私たち「りんご娘」は先日、第一次産業の朝をテーマにした「0と1の世界」という楽曲をリリースさせていただきました。この楽曲で伝えたいことをアートで表現してくれたかのように、この企画展では第一次産業の何もないところから何かを創り出す楽しさや大切さを伝えてくれています。
りんご娘は第一次産業の元気づけることが活動目的のひとつなので、今回の展示会を通してさらにがんばろうと思いました。人はひとりでは生きていけないこと、そして生きる上では農業が絶対に必要だし、その裏で頑張る方の美しさというものを是非、青森県立美術館へ行って感じていただきたいです!
最後に「あおもり犬」の前でパシャリ!
青森EARTH2019:いのち耕す場所 -農業がひらくアートの未来
【会期】10/5(土)~12/1(日)
【会場】青森県立美術館
【住所】青森市安田字近野185
【休館日】10/15(火)、10/28(月)、11/11(月)、11/25日(月)
【開館時間】9:30~17:00※入館は閉館の30分前まで
» 青森県立美術館
2000年7月に青森県弘前市で結成。現在は「とき」「王林」「ジョナゴールド」「彩香」の4人で活動中。音楽・芸能活動を通した地方からの情報発信と、地元青森の活性化、全国、海外の第1次産業をエンターテイメントで元気づけることを目標としている。国民的アニメソングカバーコンテスト「愛踊祭(あいどるまつり)2016」では242 組のアイドルが参加し、「優勝」&「ベストオーディエンス賞」のW受賞。2019年3月19日に3枚目のアルバム「FOURs」をリリースし、初のオリコン週間インディーズアルバム5位にランクイン。2019年4月には海外を含む初の全国ライブツアー「RINGOMUSUME SHIPMENTLIVE TOUR 2019 ~101回目の桜~」を成功させ、9月にデビュー19周年を記念した「RINGOMUSUME 19th Anniversary LIVE ~20周年前年祭~」を東京・青森で開催。11月5日に21枚目のシングル「0と1の世界」をリリース。