ゲーム音楽と郷土音楽の要素を融合させ、新たな魅力を発信しようとするコンサート「ゲー音ツガル」。3月6日、青森県弘前市より無観客でライブ配信された。ゲストに「ロマンシング サ・ガ」「聖剣伝説」シリーズなどの人気タイトルの作曲を手掛け、「イトケン」の愛称でも知られる伊藤賢治氏、「グランブルーファンタジー」の作曲担当、「テラバトル」の編曲担当をした成田勤氏、「リッジレーサー」「鉄拳」などの楽曲を制作した佐野電磁氏を迎え、地元からは津軽笛、津軽三味線、和太鼓の実力者が顔を揃えた。超絶ドラムテクニックで知られるゆるキャラ・にゃんごすたーも参加し、圧巻のステージを繰り広げた。
目次
1.登山囃子や津軽じょんがら節によるオープニングアクト
2.即興の佐野電磁さん、グラブルの成田勤さん
3.ついに登場!イトケンと…?
4.「ゲー音ツガル」セットリスト
5.まだ間に合う!アーカイブ視聴ページ紹介
弘前市がある青森県の東部に位置する津軽地方には、津軽三味線や津軽笛といった郷土楽器、民族音楽などが根強く残っている。その魅力を掘り起こし、コラボレートするこの企画は、人気ゲーム楽曲にも新たな味わいを提案することを狙った。2017年には同市で伊藤氏らを招き、津軽三味線はもちろんのこと、パイプオルガンなどを使ったコンサートを開催。和楽器とコラボした「下水道」は現在でも語り草になっているという。
» 弘前でゲーム音楽ライブ パズドラやロマサガ演奏、地元奏者とコラボも(2017/11/20)
4年前のステージで、津軽の奏者との共演に刺激を受け、再演を熱望していたという伊藤氏。今回のステージは伊藤氏が惚れ込んだ津軽笛奏者・佐藤ぶん太、氏による「登山囃子」で幕を開けた。佐藤氏は日本の横笛メインでは史上初となるニューヨーク・カーネギーホールでの公演を成功させた第一人者。
津軽笛奏者の佐藤ぶん太、氏
火祭りで知られる地元・弘前ねぷたの囃子では和太鼓奏者・大沢しのぶ氏が加わり、その後は津軽三味線・佐藤晶氏による「津軽じょんがら節」と続き、津軽土着の音楽が紹介された。
津軽三味線奏者・佐藤晶氏
和太鼓奏者・大沢しのぶ氏
その雰囲気をガラリと変えたのはメインゲストの1人、佐野氏。自身がディレクター・プロデューサーとして手掛けたニンテンドースイッチ用ソフト「KORG Gadget for Nintendo Switch」を用いた即興によるトラックメイクを披露した。ビートの打ち込み方や音色の選択や調整など、楽曲が形作られていくまでの過程や試行錯誤を大スクリーンに映したゲーム画面を見ながら紹介し、「トークDJ」としても知られる同氏の舌鋒も冴え渡り、ダンスフロアを持ち込んだかのような熱気を個人で演出してみせた。
ゲーム画面を見せながら即興で音楽を作った佐野電磁氏
続いて登場したメインゲストは成田氏。「グランブルーファンタジー」の楽曲を初披露というピアノでしっとりと奏でた。このうち「ダイダロイトベルト-原初への道標-」は美しい旋律が際立つピアノソロ用のアレンジ。「アウギュステ列島-白沫の瀑布-」では成田氏の独奏から佐藤氏の横笛が加わり、2ピースとは思えない繊細で豊かな響きを広げた。続く「ライヒェ島-人住まう魔窟-」ではさらに大沢氏の和太鼓、佐藤氏の津軽三味線を加えた編成となり、オリエンタルな楽曲の持ち味を十二分に引き出したパフォーマンスを披露した。
グラブル曲でピアノ演奏は初という成田勤氏
にゃんごすたーは、「鉄拳」シリーズの「キング」を模した姿で登場するという茶番で作ったムードを、伊藤氏の楽曲「Dragon's Den(MORE ROCK!)」=「パズル&ドラゴンズ」より=に合わせたド迫力のドラミングで打ち破る。さらに大沢氏の和太鼓とのユーモラスなドラム対決を繰り広げた。自身がドラムを務めるキャラメタルバンドの「RED SPEED STAR」も叩き切った。
ドラムがすごすぎるゆるキャラにゃんごすたー
満を持して伊藤氏が登場。まずは佐野氏との伝説的コラボユニット「伊藤電磁」がまさかの再結成!?としてステージにお目見えした。かつては3時間イベントで演奏は6曲のみで喋り倒したという、軽妙すぎるトークに乗せて2氏がアドリブでセッション。佐野氏の組み立てたビートに伊藤氏がピアノで旋律を乗せ、さらに佐野氏が声高らかにヴォーカルを被せていく。弘前名産のトウモロコシである「嶽きみ」が食べたいという思いを歌い上げた「嶽きみのテーマ」、泊まったホテルの一室でサルを目撃したという佐野氏のエピソードを元にした「朝起きたらサル」を誕生させた。
8年ぶりの再結成!? 伊藤電磁
改めてピアノの前に座った伊藤氏はTVアニメ「この青空に約束を ~ようこそつぐみ寮へ~」のメインテーマ「永遠の一瞬」、「月英学園 -kou-」より主題曲「そして月は輝く」をピアノソロで演奏。そして佐藤氏を招き「ロマンシング サ・ガ3」から「ポドールイ」へ。「ポドールイと同じく雪の街である弘前市に着想した選曲」と伊藤氏。コンサートに合わせて初披露となるアレンジでピアノと津軽笛の音色がやわらかく溶け合った。
笑顔の伊藤賢治氏
クライマックスは全奏者がそろっての「四魔貴族バトル1」。生演奏では初となる和楽器バージョンで、成田氏のシンセと佐藤氏の津軽笛が奏でる主旋律を伊藤氏のピアノと和太鼓がぐっと持ち上げる。にゃんごすたーのドラムの存在感は言わずもがな、津軽三味線の音が小気味よく絡み、佐野氏もアクセントを差し込む。まさにゲーム音楽と郷土芸能の融合というイベントテーマを象徴するパフォーマンスとなった。
出演者全員で披露する「四魔貴族バトル1」
アンコールではメインゲストの伊藤、佐野、成田の3氏による座談で幕開け。その中で伊藤氏はスクウェア(現スクウェア・エニックス)時代の同僚・村田琢氏の娘である村田優香さんが青森の放送局でキャスターとして活動しているという縁を紹介。優香さんのために制作したというピアノ曲「gentle song」を最後に演奏しようとなったところで、舞台袖から村田さんご本人が登場した。
彼女が赤子の時以来の再会に感極まった伊藤氏が男泣きを見せる、貴重な一コマも見られた。
左から佐野氏、伊藤氏、成田氏
男泣きする伊藤賢治氏
自分のために伊藤氏が作ったという曲を初めて聞く村田さん。舞台袖からずっと耳を傾けていた
伊藤氏は作曲活動を始めて昨年30周年となり、1月には記念ライブを行ったばかり。31年目を迎え、今後の活動に期待が高まる。成田氏は「グランブルーファンタジー」を中心に作曲活動が今年も本格化し、佐野氏もKORGを使ったワークショップをオンラインなどで開いていくという。
新型コロナウイルスの影響により、無観客の開催に至った同コンサート。地方からでもゲーム音楽を盛り上げることができる一つの指標となったのではないだろうか。
M1:登山囃子~ねぷた囃子
M2:津軽じょんがら節
M3:佐野電磁のトラックメイク
M4:ダイダロイトベルト-原初への道標-(グランブルーファンタジー)
M5:アウギュステ列島-白沫の瀑布-(グランブルーファンタジー)
M6:ライヒェ島-人住まう魔窟-(グランブルーファンタジー)
M7:Dragon's Den(MORE ROCK!)(パズル&ドラゴンズより)
M8:RED SPEED STAR
M9:嶽きみのテーマ(即興)
M10:朝起きたらサル(即興)
M11:永遠の一瞬(この青空に約束を ~ようこそつぐみ寮へ~)
M12:そして月は輝く(月英学園 -kou-)
M13:ポドールイ(ロマンシング サ・ガ3)
M14:四魔貴族バトル1(ロマンシング サ・ガ3)
M15:101回目のさくら(弘前さくらまつり公式応援ソング)
M16:gentle song
ゲー音ツガル(GAME ON TSUGARU)
3月6日に開催された「ゲー音ツガル(GAME ON TSUGARU)」。ゲーム音楽と郷土芸能のコラボ。「ロマサガ」シリーズで知られるイトケンこと伊藤賢治氏や「鉄拳」「リッジレーサー」などの楽曲を担当した佐野電磁氏、「グランブルーファンタジー」の成田勤氏といった豪華なゲーム作曲家が参戦。津軽笛の佐藤ぶん太氏や津軽三味線の佐藤晶氏、和太鼓の大沢しのぶ氏、そして、ドラムがすごすぎるにゃんごすたー氏が出演したこのコンサートは3月19日まで録画(アーカイブ)による視聴可能。今しかないチャンスを逃すな!(チケットは購入は17日まで)