カゴメ株式会社(代表取締役社長:奥谷晴信 本社:愛知県名古屋市)と、弘前大学大学院医学研究科バイオメディカルリサーチセンター 分子生体防御学講座の伊東健教授(同大学 野菜生命科学講座 兼任)を中心とする研究グループは、軽度認知障害(MCI)と判定された方を含む、認知機能低下リスクが高い高齢者を対象に、機能性成分”スルフォラファングルコシノレート(別名:グルコラファニン、以下SGSと記載)”(*1)の長期摂取効果を検証しました。研究参加者には定期的な運動指導とあわせて、3.5年間(42か月)にわたりSGSを継続摂取してもらいました。その結果、認知機能(特に記憶機能)の指標であるMPI(Memory Performance Index:認知機能指数)スコア(*2)について、SGSを摂取したグループは、非摂取グループに比べて良好な状態を維持していたことが確認されました。本研究成果は、2026年1月26日、オンライン雑誌「Frontiers in Nutrition」に掲載されました。
なお、本研究は、岩木健康増進プロジェクト(*3)の健康ビッグデータを有する、弘前大学COI-NEXT拠点(*4)の参画機関として実施したものです。
■ 発表のポイント
3.5年間という長期的な認知機能の維持を確認
認知機能低下リスクの高い高齢者を対象に、SGSを用いた栄養介入を3.5年継続した結果、認知機能指数であるMPIスコアが、非摂取群と比較して長期間にわたり良好に維持されていることを確認しました。3.5年という長期の介入効果を検証した例は世界的にも極めて限られており、貴重な研究成果です。
MCI(軽度認知障害)の方において、試験終了時点(3.5年後)でより明確な効果
研究参加者のうち、試験開始時にMCIと判定された方々のグループでは、試験終了時点(3.5年後)の認知機能維持効果がより明確に示されました。
■ 研究の背景
認知症は、正常な状態から「軽度認知障害(MCI)」を経て進行するとされており、MCIの段階は将来のあたまの健康を守るために適切な対策を検討すべき重要な時期です。本研究グループは、生体内の生体防御機構「Nrf2」を活性化させる作用を持つ、ブロッコリースプラウト由来成分SGSに着目しました。これまで、健康な高齢者を対象とした短期間の介入試験では、SGSが認知機能に良い影響をもたらす可能性が示されてきました(*5)。しかし、MCIの方を含むリスク層に対する効果や、1年を超える長期的な予防効果に関するデータは十分ではありませんでした。そこで本研究では、SGSを3.5年という長期間にわたり継続摂取した場合に、あたまの健康状態をどの程度維持できるかを詳細に検証しました。
■ 研究内容と結果
1. 実施方法
本研究は、3.5年間(42ヶ月間)のランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験(*6)として実施されました。MCIと判定された方を含む認知機能低下リスクが高い63~90歳の男女26名が、a) SGSを含むサプリメントを摂取する「SGS群」と、b) SGSが全く入っていないプラセボサプリメントを摂取する「プラセボ群」に分かれて、それぞれのサプリメントを毎日、3.5年間摂取させた期間の前後で、認知機能テストを行いました。なお、試験期間中、両方の群の参加者に対して任意で参加できる運動プログラムが提供されました。
2. 評価方法
認知機能テスト「あたまの健康チェック(R)(英語名:The MCI Screen)※」を用い、認知機能(MPIスコア)の変化を評価しました。
※「あたまの健康チェック(R)」は株式会社ミレニアの登録商標です。
3. 主な結果
認知機能テストの変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いて算出)を用いて、SGSを含むサプリメントの効果を調べました(*7)。
研究参加者全体(認知機能低下リスクがある高齢者)において、SGS群はプラセボ群に比べ、3.5年間の全期間を通じた認知機能(MPIスコア、即時再生スコア、遅延再生スコア)の変化量が統計学的有意に高く維持されました(図1、2)。試験開始時にMCIと判定された方々においても、SGS群のMPIスコアはプラセボ群と比べて統計的に有意に維持されることが確認されました(図1)。

図1. 研究参加者全体およびMCIグループの認知機能指標(MPIスコア)の変化量(●SGS群/〇プラセボ群, 左:試験対象者全体/右:試験開始時にMCIと判定された対象者)

図2. 認知機能指標(即時再生スコアおよび遅延自由再生スコア)の変化量(●SGS群/〇プラセボ群, 左:即時再生スコア /右:遅延自由再生スコア)
変化量は、介入後の得点から介入前の得点を引いて算出しました。変化量は、得点が高いほど良いことを示します。エラーバーは、標準偏差です。
■ 今後の展望
今回の研究により、認知機能低下リスクがある高齢者、特にすでにMCIの状態にある方にとって、日常的にSGSを摂取することが、あたまの健康を維持し将来に備えるための、安全かつ実用的な選択肢となり得る可能性が示されました。今後は、より詳細な研究を通じて、食事や機能性成分の摂取による早期介入が、社会全体の健康寿命延伸にどの程度寄与できるのかを明らかにしてまいります。
■ 掲載論文情報
- 論文名: Efficacy of 42-month oral administration of glucoraphanin in preventing cognitive decline in individuals at elevated risk of dementia, including those with mild cognitive impairment: a randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study.
- 掲載誌: Frontiers in Nutrition
- 著者: Sunao Shimizu, Shuya Kasai, Chieko Suzuki, Tomoya Kon, Hiroyuki Suganuma, Shigenori Suzuki, Koichi Murashita, Shigeyuki Nakaji, Kazushige Ihara, Masahiko Tomiyama, Ken Itoh
- DOI: 10.3389/fnut.2026.1740494
■ 注の解説
*1 スルフォラファングルコシノレート(SGS)について
スルフォラファングルコシノレートはブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に含まれており、解毒作用、抗酸化作用、抗炎症作用などを示すことから、様々な疾病の予防・改善に有効である可能性が多数報告されています。
*2 MPI(Memory Performance Index:認知機能指数)スコア
米国 Medical Care Corporation および株式会社ミレニアが開発した認知機能検査「あたまの健康チェック(R)」(The MCI Screen 日本語版)によって算出される認知機能スコア。被検者の微細な認知機能の状態が0-100の指数値(MPI: Memory Performance Index)で分かりやすく定量・客観的に観察されます。The MCI Screenおよびその日本語版である「あたまの健康チェック(R)」(The MCI Screen)は、国際的に利用される高次機能検査バッテリーであるCERADやADAS-Cogの10単語想起テストを基に、独自のプロトコルとアルゴリズムを組み合わせ、 人口統計学的に認知機能を客観評価するテストであり、FDA(Food and Drug Administration)の新薬治験においてアウトカムスケールの1つとして採用されている他、日本でも、2016 年度より開始された厚生労働省事業 IROOP(R) (Integrated Registry of Orange Plan)においてこのテストが採用されるなど、実績のある評価指標です。
*3 弘前大学COI-NEXT拠点
弘前大学では、2022年10月に文部科学省・国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に採択されました。弘前大学COI-NEXT拠点では、健康を基軸に、若者が地域で働きたいと思える成長産業として魅力的なヘルスケア産業を創出することによって、地域の人々を健康にしながら経済発展し、全世代の人々が生きがいをもって働き続けることができ、心身共にQOLの高い状態での健康寿命を延伸する、well-beingな地域社会モデルの実現をめざしています。これまでの弘前大学COI拠点の成果を発展的に承継し、持続的に成果を創出する自立した産学官共創拠点の形成を目指すプロジェクトです。
*4 岩木健康増進プロジェクト
弘前大学が青森県弘前市岩木地区で2005年から継続実施している大規模合同健康調査で、約3,000項目という世界に例のない膨大な健診項目を設けることで、巨大な健康ビッグデータを記録しています。弘前大学では、2013年に文部科学省・JSTによる「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」に採択され、岩木健康増進プロジェクト健診の超多項目健康ビッグデータの解析により、認知症・生活習慣病などの早期発見を可能にし、予防方法の創出と検証を行い、その成果を社会実装する研究活動を弘前大学COI拠点で展開しました。
(2013~2022年)
*5 スルフォラファングルコシノレートの健康な高齢者の認知機能に対する二重盲検無作為比較対照試験
Nouchi, R., et al. (2022). "Effects of sulforaphane intake on processing speed and negative moods in healthy older adults: Evidence from a randomized controlled trial." Frontiers in Aging Neuroscience 14.
*6 ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験
研究参加者を無作為にグループ分け(ランダム化)し、さらに研究参加者の判断、行動、心理に影響を与えることがないように、研究参加者と研究参加者に接する試験実施者の双方に、被験物とプラセボの区別をわからないようにして実施する試験方法。
*7 統計方法
各認知機能指標(MPIスコア、即時再生スコア、遅延自由再生スコア)の試験開始時点から各測定時点の変化量を、線形混合モデル(変数:個人ごとの変量効果、および群と、群×時点の相互作用を含むカテゴリ変数に関する固定効果、ならびに初期値、時点、および初期値×時点の相互作用を含む連続変数に関する固定効果)に供しました。解析は統計解析ソフトRによって実行されました。