青森・弘前東高校野球部でただ一人の女子部員・佐々木桃子さんが全国高等学校野球選手権大会に向けて「最後の夏」に挑戦する。
佐々木さんは現在3年生で、ポジションは投手。野球は父親や野球部のマネジャーをしていた姉の影響を受けて始めたという。当時から選手としてプレーし、「女性プロ野球選手・吉田えりさんに憧れがあった」と話す。
中学の時は野球部がなかったためソフトボール部に入ったが、ソフトボールをしたことで野球の魅力を再確認し、同高校の入学を機に野球部に入った。同部の葛西徳一監督は「青森県内では唯一の女子野球部員で、東北エリアでも珍しいのでは」と話す。
葛西監督は当初、佐々木さんの入部に強く反対したという。「体力面と、男子の中で女子が一人で練習を続ける厳しさは半端な気持ちではできないと伝えた」と振り返る。
佐々木さんは「監督の話の中に、一度やってみてダメだったらマネジャーをやればいいという提案があった。そんな覚悟でやっていたわけではなかったので、悔しくて涙が出た」と話す。翌日も部員として毅然(きぜん)と練習に参加していた佐々木さんの姿を見た葛西監督は、佐々木さんの意思を尊重するようになった。
日本高等学校野球連盟の規定によると、高校野球の公式試合などにおいて女子生徒の参加は認められていない。公式戦には出場できないが、練習試合であれば対戦チームの了解を得られれば出場できることもある。過去にリリーフとしてマウンドに立ち、失点の続いていたチームを救ったこともあった佐々木さん。「試合に出場できないことは割り切っているが、近い将来、女子生徒の出場も認められるような規定になってほしい」と明かす。
練習では、男子部員たちとの練習で体力や身体能力で劣ることが多く、部員たちから叱咤(しった)されることもあった。「聞き流せば済むことも、どうしても許せない時があり、マネジャーたちに話して解消する」と女の子らしい一面を見せる。
同部には4人の女子マネジャーが所属。「監督室」と称した女子マネジャーと佐々木さんだけが入れる部屋であり、女子マネジャーらは佐々木さんの相談に乗る。「4人は仲良しで一緒にご飯を食べに行ったり、遊びに行ったりする」と笑顔を見せる。
7月から始まる選手権大会では佐々木さんは規定によりベンチに入ることができず、スタンドから応援する。佐々木さんは「精いっぱい声を出して盛り上げ、自分でできることでサポートしていきたい」と意欲を見せる。葛西監督は「スコアラーとしてベンチに入れることもできたが、彼女は最後まで選手を貫きたいと思う。いい声を持っているので、スタンドから選手たちの支えになるのでは」と話す。
部活動を続けた3年間を振り返り、野球を辞めようと考えたことは何度もあったという。「ちょうど1年前に腰を痛め、痛みのあまり野球を辞めようと思った」と振り返る佐々木さんだが、全国の女子野球部の存在を励みに、野球を続ける女子選手たちと交流する機会も得て、改めて高校卒業後も野球を続けたいと心に決めた。
大会まであと1カ月。「最初は怖くて同学年のチームメートにも話をすることができなかったが、今では仲良く話すこともできる。みんなには最後まで諦めず戦ってほしい」とエールを送る。