スーパーやコンビニで商品が当たり前に並ぶ現代。消費者が手に入れる商品は「流通」によって届けられる。しかし、その仕組みを知る人は意外に少ない。今回は農作物を取り上げ、若手生産者や消費者に届ける新しい「八百屋」に挑戦する若手起業家らと共に、「新しい生産者のあり方」や「流通のこれから」について話し合ってみました。
目次
1.「流通」のこと、どこまで知っている?
2.100種類の農作物が1つの商品として流通している?
3.生産者の選択、市場は悪か?
4.消費者にできること、若手の挑戦
5.出演者プロフィール
工藤 弘前経済新聞の工藤です。今回は「農作物の流通」をテーマに、青森県産野菜や惣菜を販売する「ひろさきマーケット」の高橋信勝さんと弘前市郊外でカワムラファームを経営し、野菜ソムリエでもある川村悠也さん、そして、農業活性化アイドル「りんご娘」でありながら、実際にりんご農家の娘でもあるときさんの4人でお話を進めていきたいと思います
3人 よろしくお願いします
△左から川村さん、高橋さん、ときさん、工藤
工藤 自己紹介も兼ねてお一人ずつご自身の活動などをお話しいただけますでしょうか
とき はい、では私から。「りんご娘」という農業活性化アイドルをしています。ときです。活動は今年で11年目。小学4年の時から活動しています。「流通」というテーマは、私にとってまったく想像がつきません。流通って何ですか?(笑)
高橋 生産者によって作られたものが、市場などを経由して消費者の元へ届けられていることですね。私の場合、食品の運送事業に携わっていた時代があり、一人暮らしのお年寄りの自宅まで日用品などを届けに行っていたことがありました。そこで生まれた疑問から会社を立ち上げることになりましたが、「流通」というのは一般の方に馴染みの少ないことかもしれませんね
とき 私のお父さんはリンゴ農家なんですが、収穫したリンゴはほとんど市場へ出荷しています
工藤 市場に出したリンゴがどこへ運ばれ、どのような消費者に食べられているかってご存知ですか?
とき えーと、わからないです。お父さんもたぶん知らないと思います
高橋 市場は、全国さまざまなところへ届けられるというメリットがある一方で、一つの「商品」として流通するため、生産者たちのこだわりや名前を伝えることは難しくなります。リンゴの場合で説明すると、市場に集まったリンゴは「弘前産」もしくは「青森産」という生産地でくくられて出荷されます
とき そう…なんですね。出荷された先のリンゴについて、あまり考えたことがなかったです
川村 私は、就農して間もない頃、ネギを市場に出荷したことがありました。しかし、軟白部分の長さや大きさが規格に合わないという理由で、想定していた金額より安値で買われることになりました。初めて市場に出したということもあって、ショックは大きかったです
とき 市場に流通させるには、そういった基準があったり形の悪いものがダメだったりするんですか?
川村 そうですね。消費者はやはり見栄えがいい方を選びますから
とき 確かに傷がついているリンゴは敬遠されることが多いです。県外に弘前産リンゴをPRする弘前市の取り組み「パワーアップる!弘前産りんご」に参加させていただいています。買ってもらえるリンゴは無傷で形の良いものが選ばれます。同じリンゴなのに、って思ってしまうこともありました
高橋 自然災害や生長過程で傷ついてしまった農作物はたくさんあります。味は変わらないのに、見栄えの悪さや傷があるという理由で取引がされないんです。ですが、私が考える「八百屋」とは、対面で販売し、例えば「傷は付いているけど、その部分だけとり除けば大丈夫」「味はあの農家さんが作ったものだから同じです」といった説明をします
△パワーアップるでリンゴをPRするときさん(提供:RINGOMUSIC)
とき それが高橋さんの目指していることなのでしょうか?
高橋 生産者のこだわりをきちんと伝えることができます。多少の傷であれば積極的に買い付けていきたいです。生産者と消費者、そして私たちという「三方良し」という理念で食材と向き合っています
とき 市場に出すとほかにどのような問題があるのでしょうか?
高橋 問題というより、現状の流通のことをもっと知ってもらいたい。自分たちが日々食べている農作物がどのような人の手によって作られ、どう届けられているのか。知る機会が今は少ないのかもしれません
川村 市場というのは規格に合ったものしか取り扱いません。それだけでなく、一定の収穫量がないと、取引もしてくれない。だから生産者は新しい農作物に挑戦しにくい一面もあります。そういう意味では、自分で生産量や価格をコントロールできる高橋さんのような業者がいると生産者としては心強い
高橋 私の仕事にはそういった野菜を見つけることもあります。知らないビニールハウスを見つけるとテンションが上がります(笑)。近くの人に「誰のビニールハウスですか?」と聞いてまわり、栽培している農作物を聞き出し、卸させてもらえないかと、その場で交渉することもあります
工藤 生産者からこだわりを聞き出すポイントってどこにありますか?
高橋 まずは土作りですね。こだわりを持っている生産者は、土作りからこだわっている人は多い。次にどういう品種を使っているかを聞きます。キャベツには100種以上の種類があるってご存知でしょうか?
とき どういうことですか?
川村 店頭に並んでいるキャベツは、見た目が同じでも品種が違ったりします
とき ええ!本当ですか?
高橋 産地や気候やシーズンに合わせ、生産者が試行錯誤して品種を選んで作っています
とき 知らなかった!つまりお店に売られているキャベツは同じキャベツでも時期や産地によって違う品種になっているということですか?
高橋 そうですね。なので、品種名を聞き、「どうしてこの品種にしたんですか?」と聞き取り、こだわりを聞いていきます
工藤 なるほど。例えば嬬恋といった有名な産地のキャベツを弘前で栽培するとおいしく作れたりするんじゃないですか?
高橋 できるかもしれないし、できないかもしれない。こればかりは、やってみないとわからない。しかし、生産者の中には新しい農作物に挑戦したり在来品種を栽培し続けたりしている方がいらっしゃることも事実。青森にはまだ世の中に流通していない農作物がたくさんあります
工藤 過去にまだ知られていないものを発見したという達成感のあった農作物はありませんか?
高橋 雪下ダイコンですね。雪の下で栽培するニンジンは有名ですが、考え方は同じで、収穫した後、雪の下に保管することで糖分が増すといわれています。初めて食べた時「あまい!」と興奮しました。言い過ぎかもしれませんが、まるで梨のようでした。今では店頭に置くと、すぐに完売します。形が悪く見た目はボロボロなのですが、最初から売れるようになりました
とき 食べてみたいです!
高橋 ぜひ。ウチのお店で今なら取り扱っています(笑)
※雪下ダイコンの取り扱い時期は2月~3月
川村 生産者に二極化が進んでいると思います。いいものを作ろうと技術を磨くタイプと、私のように営業し、自分で作ったものは自分で売るタイプです
高橋 さっき川村さんがお話しされていたネギのことですが、最大の問題は生産者自身が作った物を自分で値段を決められないことだと感じています。変動する市況によって、生産物の値段が大きく左右される。これでは生産者の生活が安定しない
川村 だからといって生産者全員が、市場への出荷をやめて自分の作ったものを自分で売り、価格も決める、なんてことができるわけがありません。市場は小売りと違い、大量に買い取ってくれるメリットがあります。生産者にとって切り離せない存在です。さらに農作業は忙しいですし、自分の作ったものを自分で売ることまで考えられるようになる生産者は一部ではないでしょうか
△市場に並ぶ大量のリンゴ(2016年に撮影)
とき どのくらいの生産者さんが自分から動いていたりしますか?
川村 難しい質問ですが、それでも若い生産者に多いと思います。私の場合、自分で販売まで手掛ける先輩たちを見ていたので、大きな影響を受けています
とき リンゴ農家でもいますか?
川村 もちろんです。早くはリンゴ台風の時に、自分で流通を考え始めた生産者はいたと思います
とき 1991(平成3)年にあった自然災害ですね。私はまだ生まれていなかった
川村 私もまだ子どもだったので聞いた話でしかわかりませんが、良くても加工用として安値で引き取ってもらうしかできなかったと聞いています
高橋 収入の軸を増やし、うまく付き合っていくかが重要になるのでは。例えばネット販売や産直などに出荷して自分で販売するなど。市況によって値崩れした際のリスクを回避できる手段はたくさんあった方がいい
川村 まさにその通りですね。私の場合は、自分が楽しんでいるので続けています。昨年、レタスに初挑戦したのですが、出荷した分が2日で完売しました。今年はどのような生産体制でやろうか交渉中です
工藤 農作業を自分で行い、販売ルートも自分で開拓する。想像しただけでも気が遠くなるような仕事量ですね
川村 私のようなスタイルでは、農繁期は農作業、農閑期に業者との打ち合わせ。今日もこの後、打ち合わせがあったりします。でも自分が作ったものがちゃんと消費者に届けているという実感がありますよ
とき 自分で作ったものを自分で販売する。川村さんのような生産者さんが一人でも多く増えれば、青森がもっと元気になるような気がします
工藤 今日の話を聞いて、どうでしたか?
とき りんご娘という活動をして青森の農業活性化を目指していますが、「流通」について考える機会が今までなかったので、とても勉強になりました
工藤 スーパーなどに並ぶ農作物を見て、一度考えてみることも楽しいかもしれないね
とき キャベツはチェックしてみたいと思います。生産者さんのほかにも、高橋さんのような新しい流通のあり方に挑戦する人がいてこそ生産者さんが作る農作物が手に入るということもわかりました
工藤 雪下ダイコンも高橋さんがいたからこそ今日初めて知ったよね
とき はい、食べてみたいです
工藤 知らないままにするのではなく、私たち消費者も考えなければいけない時代になっているのかもしれないね
とき そうですね。今日はありがとうございました
とき
青森のご当地アイドル「RINGOMUSUME(りんご娘)」。「弘前アクターズスクールプロジェクト」6期生。2011年「とき」としてデビュー。弘前市制作のPR映画「りんごのうかの少女」に出演。3月19日はサードアルバム「FOURs」が発売された
高橋信勝
合同会社ひろさきマーケット代表社員。弘前中央食品市場で2011年に「BONHEUR(ボヌール)」を開業。現在は弘前市のほか、青森市にも出店し、ルネスアリーに「そらにわ」というレストランも開業させた
川村悠也
カワムラファーム。野菜ソムリエ。就農前は北海道で農薬の卸しの会社に勤務。現在はりんご、スイカ、ハウスネギ、ブロッコリーといった農作物にも挑戦している
工藤健
弘前経済新聞編集長。埼玉出身で現在は弘前在住。ウェブを中心にライター業を行う。
Next Commons Lab(以下、NCL)は、地域リソースに対する事業創出などを目的とした、 マルチセクターによる活動プラットフォームであり、新しい共同体です。
各地にNCL を立ち上げ、それぞれの地域に沿ったプログラムを実践しながら ネットワークすることで新たな社会インフラを整備し、 コミュニティ間のネットワークと人材や知見の流動性を高めることで、 より自由な生き方を選択できる社会を目指しています。
NCL弘前は「まち全体をキャンパスにする」をコンセプトに、 多様な人が集い、知識や経験、技術を持ち寄り、成長する場所、自己実現の場所、革新が起きる場所として あらゆる場所がキャンパスになることを目指します。 暮しと仕事の実践の中から、世代や立場を越えて学び合い、あたらしい価値とまちの未来を創造します。